【魚】のおいしさ – 仕立ての理論

魚の旨味は熟成だけではない
“脱水締め”と”ATPが最大化する瞬間”

近年、「熟成魚」という言葉が広く知られるようになった。
時間をかけることで旨味が増す、という考え方は確かに正しい。

しかし、魚の旨味は長期熟成だけで完成するものではない

現場では、脱水を施した直後にATP由来の旨味が急激に立ち上がる “一瞬のピーク”が存在することが知られている。

これは理論だけでなく、日々魚と向き合う漁師さん、魚屋さん、料理人の日々の向き合い方の結晶の記録になります。

目次

締めとは?

まず、一般的に「締める」という言葉は、単に魚を殺す行為のように捉えられがちです。

しかし料理の現場で言う「締め」とは…

死後に起こる変化を、こちらの意図で整えるための行為。

締め方の違い

工程目的主な操作ATPへの影響向いている用途・特徴
血抜き酸化・臭みの原因を除去エラ・尾を切り、
血液を排出する。
直接的な影響は少ないが、
ATP分解環境を整える。
すべての魚に必須。
香り・色・保存性を左右する。
野締め(のじめ)迅速に命を終わらせる脳を破壊し、即座に締める。ATP消費がやや進みやすい。当日消費向き。
手早さ重視の現場。
神経締め身の硬直を遅らせるワイヤーなどで
神経を遮断する。
ATP消費を抑え、
旨味生成を安定させる。
熟成・高品質提供向き。
身質が長く安定する。
脱水締め水分を制御し、旨味を引き上げる塩・紙・冷蔵環境で
余分な水分を抜く。
ATP→IMP変換を
効率化・加速させる。
当日提供〜短期熟成。
食感を残した旨味設計。

脳死

脳を破壊し即座に死に至らせることで、魚体の無駄な動きを完全に遮断。

この「動き」が問題なのは、筋肉が収縮するたびにおいしさのポイントであるATPが消費されてしまうこと。

ATPは、死後に旨味成分であるIMPへと変化する重要な物質であり、生前から死直後にかけて無駄に消費させないことが、味の設計に直結する。

また、暴れることで筋肉内では乳酸が急増し、pHが低下し、これによりタンパク質の変性やドリップの増加が起こり、身質は著しく劣化する。
(ストレスをかけないとは、こういうことを指す)

結果的に脳死させる目的は…

  • 無駄なATP消費を止める。
  • 筋肉内環境の悪化を防ぐ。
  • 硬直の進行を緩やかにし、熟成をコントロールする。

血抜きの重要性

血抜きとは、魚の臭み・劣化・味の濁りの原因を最初に断ち切る工程である。

この工程が不十分だと、どれだけ神経締めや脱水締めをしても、味は伸びない。

その理由は…

  • 血中の鉄分による酸化。
    • 脂質酸化を促進。
    • 魚特有の生臭さを発生。
    • 熟成中の劣化スピードを加速。
    • ATP→IMP変換途中で劣化が始まる。

神経締め

神経締めとは、脳死後に脊髄神経を破壊し、死後も続く神経伝達を完全に遮断する技術である。

魚は脳を破壊しても、脊髄を通じた反射運動が長時間続く…
この「死後の運動」こそが、魚の品質を内側から壊す最大の要因となる。

観点神経締めをしない場合神経締めをした場合
脳死後の状態脊髄反射が続く。神経伝達が完全に遮断される。
筋肉の動き断続的に収縮し続ける。弛緩した状態を保つ。
ATPの消費無駄に消費され続ける。消費が最小限に抑えられる。
乳酸の生成急増しやすい。緩やかに生成される。
筋肉内pH急激に低下する。低下が緩やか。
死後硬直早く進行する。遅く進行する。
身質硬くなりやすい。しなやかさを保つ。
水分保持ドリップが出やすい。水分保持力が高い。
熟成の自由度低い。(設計が難しい)高い。(設計が可能)
味の印象神経伝達が完全に遮断される。時間と共に旨味が伸びる。

ATPには、急激に旨味が立ち上がる「瞬間」がある

魚の旨味は、ATP(アデノシン三リン酸)の分解によって生まれる。

ATPは死後、次のように変化していく。

ATP → ADP → AMP → IMP

この最終段階で生成されるIMP(イノシン酸)が、魚の代表的な旨味成分だ。

一般的には「時間を置くほどIMPが増える」と理解されがちだが、 実際のATP分解は直線的ではない。

水分量・温度・締め方が整った瞬間、ATPの分解が一気に進み、旨味が跳ね上がる局面が存在する。

脱水締めがATPを引き上げる理由

脱水締めの本質は、「水を抜くこと」そのものではない。

余分な水分を抜くことで、

  • ドリップ(旨味成分の流出)を防ぐ。
  • 酵素反応を安定させる。
  • ATP分解のスピードを最適化する。

という環境が整う。

この状態に入った直後、IMPが急激に生成される「旨味の立ち上がり点」が訪れる。

これは長期熟成とは異なる、脱水によって生まれる瞬間的な完成形だ。

打ち塩の選択

脱水締めや熟成を前提とする場合、精製塩よりも岩塩やミネラルを含む塩の方が適している。

理由は、
「脱水の仕方」「身質への影響」「旨味の立ち上がり方」に明確な差が生まれる。

なぜミネラル塩は脱水締めに向くのか?

脱水が急になりすぎない点。

精製塩はNaCl濃度が高く、表層から一気に水分を引き出すため。

  • 表面だけ硬くなる。
  • 内部との水分差が大きくなる。
  • ドリップが出やすい。
打ち塩による浸透圧の関係性とは?

筋繊維へのストレス緩和。

  • 精製塩=急激な脱水により筋繊維を収縮させてしまう。
    • 身が締まりすぎる。
    • 噛み始めが硬くなる。
    • 旨味の立ち上がりが早く終わる。
  • ミネラル塩=筋繊維への刺激が穏やかで、構造を壊しにくい
    • 塩の粒子が大きため、浸透圧も身に対し粒子がゆっくり溶け出していくため。
味わいにも塩で影響するのでは?

ミネラル成分が味の”奥行き”を作る。

カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの微量ミネラルは、

  • 塩味を丸く感じさせる。
  • 旨味の余韻を伸ばす。
  • 苦味・甘味の輪郭を整える。
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ここの岩塩やなどの塩選びも最終的な仕立ての方向性に影響していきます。

打ち塩は岩塩を少し細かくした状態を使用しています。

脱水締め(鯖)

締めた後に、魚が動く理由…

神経が完全に死んでないことや、筋肉がまだ反応している(死後硬直)が始まっていないため。

冷やし込み

  • 冷やし
    • 揚がった魚を鮮度のいい状態で芯まで冷やし込み
      (サスエ前田魚店)前田さんの信条。魚の筋力、状態に合わせて海水の塩分濃度や氷の厚さを変え、魚の体温が上がり細胞膜を壊す酵素が働き出すのを防ぐ。

      魚種に合わせながら筋肉質の冷やし方、その氷のブレンド、咀嚼時の魚の香りの開かせ方を逆算のイメージで行う!
      日々、直向きに魚に向き合う前田さんの知識、技術、経験、生き様を感じる。
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魚の香り、咀嚼時の香りの放ち方は少しワインのような印象で熟成だけではこの香りや味わいは出せない唯一無二の表現です。

魚種によって正解の時間は異なる

脂の多い魚は、時間に耐えられる

マグロ、ブリ、サワラなど脂質の多い魚は、

  • 酸化や分解を脂が緩衝する。
  • 身の構造が崩れにくい。

という特性を持ち、長期熟成に向いている。

小型魚は「当日の脱水」が最も美味い

一方、アジやイワシなどの小型魚は…

  • 身が薄く水分が多い。
  • 長期熟成では劣化が先行しやすい。

新鮮さがもたらす食感と、脱水によるATPの急激な旨味上昇が、最も美しく噛み合う瞬間。

結果的に、水揚げ当日の脱水締めが最適となる。

新鮮さと旨みは、矛盾しない

「新鮮=旨味が少ない」という考え方は…

半分正しく、おいしさの全体の視点からは半分疑問も生まれる。

水揚げ当日の魚が持つ

  • 筋繊維の張り。
  • 歯切れの良さ。
  • 生き物だった証としての食感。

これらは、時間を置くと二度と戻らない。

+αで脱水締めを施すことで、食感はそのままに、旨味だけが引き上がる。

という、一見矛盾した状態が成立する。

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ここの鮮度と旨みのバランスをイメージしながら仕立てや調理をすることが「おいしさ」に対して重要なポイントと感じます。

噛みしめることで完成する旨味

旨味は、舌だけで感じるものではない、咀嚼(噛むこと)によって…

  • 温度が上がる。
  • 唾液と混ざる。
  • 旨味成分が口腔内に広がる。

ことで、初めて全体像のおいしさが立ち上がる。

脱水締めによって高まったATP由来の旨味は、噛みしめるほどに、静かに、しかし確実に広がっていく

これは「柔らかさ」や「脂の量」とは異なる、 もう一つの美味しさの視点。

熟成神話を超えた「伝えたい本質」

この考え方は、熟成を否定するものではない。

熟成はあくまで「おいしさ」に対する数ある答えの一つ

魚の状態・魚種など、水揚げの瞬間から、 搬送の仕方、その後の仕立て
様々な要素がバトンリレーの様に繋がり「おいしさ」に結びつく。その最も旨味が立ち上がる一点を狙う
そしてお客さんへ届けること。

s1nya.22

理論だけでは到達できない、現場の感覚と日々の積み重ね、技術をも超える、職人の直向きな行動と情熱と感じます。

まとめ
魚の旨味は「時間」ではなく「設計=情熱」で決まる

最後に以下のように…

  • ATPは長く置けば増えるわけではない。
  • 脱水後、急激に旨味が立ち上がる瞬間が存在する。
  • 噛みしめることで完成する「おいしさ」もある。

熟成とは、また違った”仕立て”とは、寝かしたり、待つことではなく、おいしさの時間を設計する料理技術であり、日々の向き合い方や人と人が生み出す情熱(生き方)そのものとも感じます。

最後まで、ご閲覧 Merci ございました。

s1nya.22



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