「水」の個性を知る|軟水、硬水、pH、そして静岡の湧き水と料理へのアプローチ
前回の記事「水は、循環する」を書きながら、水を「資源」として見ていたはずが、気づけば料理人として、 キッチンの中で毎日触れている「水の個性」を探求知るようになった。
同じ食材、同じレシピ、同じ技術や工程…
それでも、”水”が変われば味は変わる。
今回は、その「水の個性」を少し深掘りした記事になります。
s1nya.22僕自身、今回の”水”に対してのアプローチ
・素材をよりシンプルに表現する方法の1つ
(味のパーツをシンプルにする)
・子供への食育やおいしさに対し、ストレートにアプローチしたかったこと
(子供は味わいが複雑さが多いほど、あまり食べてくれなかった経験から、もっと素材の味わいが大切なんだ!そんな風に感じました)
最近では、味の構成を昔のように複雑にはせずにシンプルな構成、味わいを引き出す技術を大切にしています。
ここに日本人らしい、削ぎ落とす美しさ、余白の設計、侘び寂びの在り方などが宿っているとも感じます。
軟水|硬水、とは何か?
水の個性を決めるのは、カルシウムとマグネシウムの量。
それを数値化したものを「硬度」と表現します。
日本はほぼ全域が軟水。
理由は地形にあり、山が急峻で川が短く、雨水が地層を通過する時間が短い。
ミネラルをあまり吸収しないまま、水は海へ流れ出ていく。
一方ヨーロッパは地形が平坦で、水がゆっくりと長く地層を通過すすことで、ミネラルを豊富に含んだ硬水になる。
水の個性は、その土地の記憶そのもの。



人や自然、その背景まで思考し、表現できる料理ってすごくクリエイティブな仕事とも最近すごく感じます。
軟水・硬水が料理にもたらすもの



僕の個人的な感想ですが…
・硬水はクリアで、味わいの輪郭がはっきりしている印象。
・軟水は丸みがあって、優しい仕上がりになる印象。
実はこのような感覚な部分と科学的な視点からも筋が通っている。
軟水が向く料理
ミネラルが少ないぶん、食材の味わいをそのまま引き出す。
軟水は昆布や鰹節のうまみ成分(グルタミン酸・イノシン酸)が溶けやすく、出汁をとるのに向いている。
硬水だと水中のカルシウムがうまみ成分と結びついてアクになってしまう。
日本の出汁文化が、軟水の国に生まれたのは偶然ではなく、必然だった。
他にも、
- 白米(ふっくら、甘みが出る)
- お茶(香りをそのまま届ける)
- 繊細な素材を活かすアプローチ
- 和食や丸みを持たせ優しい印象の料理へ繋がる。
硬水が向く料理
ミネラルが料理に能動的に働きかける。
硬水に含まれるカルシウムとマグネシウムが、肉のタンパク質と結びついてアクを溶け出させ、臭みを取り除いて肉を柔らかく仕上げる働き、パスタを茹でるとカルシウムとデンプンが結びついてコシが出る。
野菜を煮る場合はカルシウムと食物繊維が結合して固くなり、煮崩れを防ぐ働き。
- 肉の煮込み・ブレゼ
- 型崩れが起こりにくい
- ブイヨン・フォン
- アクとしてネガティブな部分を取りやすく、クリアな仕上がりへ
- パスタ
- パエリア・ピラフ
フランスやイタリアの煮込み料理の文化が、硬水の土地で育まれたのも、必然だった。
比較表
一行で対比すると
| 軟水 | 硬水 | |
|---|---|---|
| 味の印象 | 丸みがあり、優しい | クリアで輪郭がはっきり |
| 水の役割 | 透明な器 | 能動的な調理素材の補強 |
| 向く料理 | 出汁・白米・お茶・和食全般 | 肉の煮込み・フォン・パスタ・洋食全般 |
| 代表する食文化 | 日本・和食 | フランス・イタリア・洋食 |
コラムとして…
パスタを茹でる際に塩を入れるのは、味付けだけではない。
軟水にミネラル分を補い、硬水に近づける目的がある、という一説がある。
料理の「なぜ?」には、水の話が隠れていることが多いことやアプローチへのヒントが存在する。
pHと料理|水のもうひとつの顔
硬度と並んで、水の個性を語るもうひとつの指標が「pH」。
pH7 が中性、それより低いと酸性、高いとアルカリ性。
料理における水のpHは、発酵・グルテン・素材の色と食感に静かに、しかし確実に影響を与える。
主な飲料水のpH
| 水 | 硬度 | pH | 性質 |
|---|---|---|---|
| 日本の水道水 | 軟水 | 5.8〜8.6 | 弱酸性〜 弱アルカリ性 |
| サントリー天然水 | 軟水 約45 | 弱アルカリ性 | まろやか |
| ボルヴィック | 軟水 約60 | 約7.0 | クリーン |
| エビアン | 硬水 約304 | 約7.2 | ミネラル豊富 |
| コントレックス | 超硬水 約1468 | 約7.4 | 強いミネラル感 |
| アルカリイオン水 | — | 8.0〜9.5 | アルカリ性 |
パン作りとpH
酵母が最も活発に働くのは、弱酸性(pH 5〜7)の領域。
pHが低いほどグルテンは締まり、高いほど緩む。
製パンに最適とされるのは弱酸性(pH 5.2〜5.6)
- 酸性寄りの水
- グルテンが締まる → 生地に張りとコシが生まれる
- アルカリ性寄りの水
- グルテンが緩む → 生地がダレやすくなる
- アルカリイオン水がパンに向かないと言われるのは…?
-
理由
「バゲットはフランスの水で作ると美味しい」という説。
- フランスの水は硬水かつ適度な弱酸性寄り、生地が締まり、クラストが立ちやすい。
- 日本の軟水は菓子パンのような、柔らかく伸びやかな生地に向いている。
これもまた、水と文化の必然的な一致。
料理全体への視点として
pHは発酵だけでなく、素材の色・食感・酵素の働きにも影響する。
- 酸性の水は素材の色素を安定。
- アルカリ性の水は繊維を柔らかくする傾向がある。
- 繊維がやわらかくなることでアク抜きがしやすいことなど、調理のポイントにも繋がる。
(重曹や灰を活用した野菜、山菜の下処理など)
- 繊維がやわらかくなることでアク抜きがしやすいことなど、調理のポイントにも繋がる。
水のpHを意識し始めると、 「なぜこの仕上がりになったのか」の答えが、少しずつ見えてくる。



市販品なら僕は Évian(エビアン)がすごくオススメです。
出汁や乳化ソースのベースの植物性のピュレなどは凄くクリアに仕上がり、素材そのものの良さがストレートに表現される印象です!
静岡の湧き水|土地の記憶を宿した水
西部・中部を軸に、少し足元を見てみたい。
西部|龍頭の湧き水(浜松市天竜区)
南アルプス最南端、標高1,352mの龍頭山を水源とする湧き水。
発見は奈良時代とされ、以来枯れることなく湧き続けている。
- pH|7.2(弱アルカリ性)
- 硬度|60〜80mg/L(軟水)
クセがなく、スッと喉を通る。
水道水と飲み比べると、後味の雑味のなさが際立つ。 浜松かぶせ茶で淹れると、まろやかさが増す——という声がある。
天竜の山から生まれ、長い時間をかけて磨かれた水。
Googleマップで見る西部|龍清水(浜松市北区滝沢町・都田)
龍清水は静岡県浜松市北区滝沢町(都田)にある湧き水スポットです。
地域住民や訪問者にとって大切な水源となっており、水質は定期的に検査されています。1回の給水量は50リットルまでというルールがあります。



僕も、ここの湧き水を使用しています。
水質検査もクリアしていて安全な水であることや飲んだ時にもクリアな味わいが印象的で、少しエビアンっぽいところも気に入っています。
料理全般、コーヒー、パンなど様々なところで活躍する水です!
娘とドライブついでに湧き水を取りに🚗💧


中部|安倍川の伏流水(静岡市)
安倍川は静岡市最北端、安倍峠(標高1,917m)を水源とする清流。 大河川でありながら川の長さは53.3kmと短く、ダムをひとつも持たない珍しい川。
「水のきれいな川」全国ランキングで毎年上位に入り、 その伏流水は静岡市の水道水にも活用されている。
安倍川流域はわさびの産地としても有名で、 葵区有東木(うとうぎ)地区はわさび栽培の発祥の地とも言われる。
清い水がなければ、わさびは育たない。
この水があったから、この静岡での食文化が生まれたとも感じます。
日本の水
日本の水は、軟水が基本だ。
しかし、その中にも土地ごとの個性が宿る。
龍頭の山から来た水と、安倍峠から来た水は、同じ軟水でも味が違う。
湧き水はその土地の地層を通り、岩を潜り、何十年もかけて皆に飲み水として辿り着く。
料理人が食材の産地を問うように、水の産地を問うことも、 ひとつの料理への誠実さや可能性だと感じます。
まとめ
水は無色透明に見えて、その内側に確かな個性を持っている。
- 硬度が料理の仕上がりを変える
- pHが発酵の流れを変える
- 土地の地形が水の性格を決める
そしてその水が、料理の基本のおいしい出汁を創り、パンを酵母を育て、お茶の地域ごとの香りを引き出してきた。
料理とは、その循環を次へ手渡していく、小さな営みであり、その土地の在り方そのものと感じます。
最後まで、ご閲覧 Merci ございました。
s1nya.22
関連記事







コメント