包丁を研ぐという行為|手入れに宿る日本人の心

切れ味が「味」を創る|包丁、道具を育てる心の在り方

僕が現在も愛用している包丁 ヴォストフ(WÜSTHOF)手にしたのは、20代前半でまだ若く、包丁や道具の知識など何もなかった頃のこと。

長所の芯の強さも、フルタングという構造の意味も、正直なところ何も分かっていなかった。

ただ、なんとなく手に取り、なんとなく使い続けてきた。最初はそれだけの出会いだった。

年齢と共に、月日をかけて研ぎ、知識を養い、日々の手入れを重ねることで気づいたこともあります。

良い道具を選んだから価値が生まれるというケースも間違いではなく、そこには技術や文化的視点も重なる。

僕自身は、選んだ道具を、大切に扱い続けることで、価値は使い手の在り方や取り扱う姿勢に価値が宿るとも感じました。

今回の記事は、”道具を大切に扱うこと”や”在り方の本質”を自身の包丁を交えながらご紹介させて頂きます。

目次

ヴォストフ(WÜSTHOF)

ヴォストフ(WÜSTHOF)は、1814年に創業したドイツの高級刃物メーカー。

世界的な刃物の街として有名なドイツ・ゾーリンゲンに拠点を置き、プロの料理人や家庭の主婦から世界中で広く愛されています。

別名「ドライザック」の名称も。

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僕自身も実際に使用している包丁です🔪

長所|使用感

包丁の長所

  • 頑丈な作り
    • 刃から持ち手までが1枚の金属で作られているため(鍛造製法)のため、非常に折れにくく長持ちします。
    • 刃こぼれも少なく、たとえ刃こぼれが起きても永く使用できる点。
  • つなぎ目のない構造:
    • 金属と持ち手の間に隙間がない構造。汚れがたまらず、サッと洗えるのもメリット。
  • 三ッ鉾(みつほこ)のマーク
    • トライデント(海神ネプチューンの持つ三又の矛)のロゴマークが目印。
      品質と機能の証。
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実際、刃も硬くタフな印象、研ぐことで切れ味は維持できますし、そこまで刃が減らないとも感じます。

他のメーカーに比べて少し重い印象ですが、慣れれば気にならないレベルと感じます。

魚、肉、骨、野菜な土でも少し硬い根菜類、気にせず刃が通るのも魅力の1つです。

手入れ(研ぐ)という行為に宿るもの

下から2本がヴォストフの牛刀、スライサー(柳刃)

研ぐたびに、少しずつ包丁の”特性”や”性格”が分かってくる。

刃の特徴。

どんな角度で研げいいのか?どうしたらもっと綺麗に仕上げれるのか…

自分自身、知識が先にあったのではなく、日々研ぐことや扱い方の経験が知識として構成された。

どんなに高価な道具でも、放っておけば”価値”は生まれない。

逆に、たった一本でも大切に研ぎ続けることで、道具と自分の間には確かな関係性が生まれ、これは技術の話である以前に、料理人としての”心の在り方”や”その使い手の生き方そのもの”と感じます。

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画像の一番上の包丁はフランスに時期に友人の Loius から貰った宝物です。

この包丁で僕のこと思い出せるでしょ!なんて言葉が今でも鮮明に覚えています。

人も想いが伝わる、その取り扱い方や在り方がとても大切と感じます。

切れ味が、味を創る

良い切れ味

研ぎという行為は、単なる手入れではなく、切れ味とは、味を創り、美味しさに直結する。

刃が鈍っていれば、素材の繊維や細胞壁を「潰しながら断つ」ことになる。

潰れた細胞は水分を保持する力を失い、断面から水分や旨味がゆっくりと流れ出していく。

一方で、鋭い刃は細胞壁を潰さずに断つことができる。

結果的に、水分保持保水性が保たれ、劣化や酸化の進み方も緩やかになる。

これは野菜や果物、細胞そのものに対してのアプローチ。

  • 保水性 |みずみずしさや、シャキッとした食感が長く保たれる。
    • 水分保持
  • 劣化の軽減|変色や乾燥、雑味の発生が抑えられ、素材本来の甘みや香りが持続する。
  • 味わいの輪郭 |細胞が保たれたまま整った断面は、口に入れた瞬間の「素材そのもの」の輪郭をハッキリとさせる。

つまり切れ味を極めるということは、素材に何かを足す技術ではなく、素材が本来持っているものを「削らない」技術。

これは、これまで塩や水、出汁について自身が解説してきた、”引き算” の思想や日本人の心構え、在り方に繋がる。

包丁の切れ味と美味しさの秘密 より

粗い切れ味

ただし、これがすべての正解ではないとも思う。

食材をあえて「粗く切る」ことは、断面の微細な凹凸により調味料が染み込みやすくなり、噛むたびに素材の旨味が口いっぱいに広がるという独自の美味しさを構成する。

美しい切り口の滑らかさとは違った、力強く野性的な味わいが魅力の1つ。

例えるなら、南米の屋台や、少し雑然としたテキ屋のような印象、ストリート感があり野生的な雰囲気また、口の中で一つの”型”として成立している。

切れ味から生まれる印象

味わいの正解は無数にある。

上記の様な粗さや乱雑さもまた、一つの完成された表現もあることや精密な引き算だけが正解ではない。

そこには、料理の「自由」があり、表現の在り方が無数に存在する。

切れ味という技術は、正解を作るための道具ではなく、どんな表現を選ぶかという自由を手にするための選択なのだと思う。

道具を大切にすることは、原点回帰でもある

侘び寂びという日本の視点

日本独自の美意識と文化視点

侘び寂びとは、不完全さや時間の経過に価値を見出す美意識

  • 「侘び(わび)」|質素で不完全なもののなかに精神的な豊かさを見出すこと。
  • 「寂び(さび)」|時が経過することで生じる古びた美しさの表現。

侘び寂びとは何か?金継ぎから学ぶ日本の美学 より

まとめ

一本の包丁を永く研ぎ、使い続けるという”在り方”は同時にサステナブルな視点にも通じている。

使い捨てず、育てながら共に在る。

これは食材や生産者、地域との関わり方、僕たちが目指す循環型の在り方と根っこの部分で繋がっている。

ものを大切に扱うという姿勢そのものが、次の世代へ繋いでいくべき文化や伝承そのものである。

知らなかったからこそ、素直に、直向きに向き合うしかなかった。

その姿勢そのものが、この一本の包丁を、僕にとってかけがえのないものに変えてくれた。

姿勢が道具を育て、その道具が料理の味わいを昇華させる。

この循環こそが、僕にとっての「原点回帰」であると共に、料理人へ伝えたい”心の在り方や姿勢”です。

最後まで Merci ございました。

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この記事を書いた人

自然 / 調和 / 共存 / 自由 / 無垢をテーマに

Chef at Restaurant Innocence(静岡県内にて開業準備中)

フランス・デンマーク・東京の現場で経験を積み、地元静岡へ

Le Pont de L'Ouysse(フランス・ミディ=ピレネー)
L'Auberge des Glazicks(フランス・ブルターニュ)
La Table de Joël Robuchon(東京)
AMASS(デンマーク・コペンハーゲン)
Simples、Caravin(静岡)を経て、現在は自身のテーマを軸にしたレストランの実現へ向けて準備中。

一皿の裏側の「食」バックグランドを
様々な造り手さん、生産者さんの想いや思考、自身のサステナブルな「食」の在り方、料理人の生き方を無垢に発信しています。

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